Fumihito Ohashi Architecture Studio

-ADI NAKAMEGURO, TOKYO, JAPAN2024.03
モダンネパール料理 ADI

 東急東横線・中目黒駅から高架沿いを歩いていくと、スパイスの奥深い香りが漂ってくる。モダンネパール料理店「ADI」は、ネパール料理に伝わる土地の素材を活かす伝統と理念を¬元に、日本の豊かな自然が育む旬の素材から新しいネパール料理を創造していく。
 食べる行為は、時に新しくも懐かしい記憶や風景を呼び覚ます。それはあたかも旅の途中の出来事のようだ。特に香りと味から受ける影響があるようで、ADIを初めて訪れた時、タイムスリップをしたような得体の知れない感覚に包まれた。オーナーがさまざまな国籍の方と触れ合い暮らす日常は、旅と日常のシンクロを感じた。この独特の空気感がオーナーの生き様そのものなのだ。
 そんなADIの空間づくりの起点は、オーナーの故郷ネパールの原風景であった。スパイスの香り、自宅のキッチンの壁の色、そこでだんらんする人々の気配。これらが交錯する故郷の記憶は、新しいADIの始まりの要素である。ひとつの大きな食卓を囲み、同じ船に乗船した旅人(客)はさまざまな感覚を巡らせ旅に出る。隣り合う客と共に、新しくも懐かしい風景に出会い、想像を超えるかなたへと旅立つ食事である。
 私が施したのは、この船とオーナーの空気感を重ね合わせることだった。大地を感じる土、食の源である稲藁、自然な風化を楽しめる銅、重厚かつ柔らかさのある木材を用い、空間の各部を構成した。木格子で雑踏から遮られたこの小さな船は、躍動感のある線状の掻き落としの土壁で囲まれ、中心には茅の屋根(シェード)と左官のテーブルが配置されている。ネパールで自然に扱われるピンクと緑の二色の左官仕上げに表情の変化をつけ、独特の柔らかさを生み出す。手触りの良い銅のフレームで構成されたイスは、YANTORの生地が滑らかで心地良い。卓越した職人によるこれらの素材が際立つ手仕事は、ADIの理念と重なり合う。
 この小さな船がここから旅立つ先は、果てしない時間と空間を超えて、私たちに多くの豊かさをもたらしてくれるであろう。




主な仕上げ材料
外装:開口部/木製格子戸木材保護塗料塗装(オスモカラー/オスモ&エーデル)
床:客席/珪砂モルタル撫で切り
壁:客席/一部木+PBt12.5下地土+石灰モルタル掻き落とし 厨房/一部木+PBt12.5下地樹脂モルタル仕上げ トイレ/一部木+PBt12.5下地藁入り糊土仕上げ
天井:既存躯体現し
什器:厨房/シナランバーOP トイレ/カウンター・シナランバー土石灰磨き
家具:テーブル/シナランバー下地3層石灰クリーム磨き仕上げ イス/金属部・ST+銅パイプたたき仕上げ 座面、背・高圧ウレタン+布張り(YANTOR)
照明器具:シェード/シナ合板下地茅仕上げ


都倉孝治|大工
都倉達弥|左官
河合広大|金物・椅子       
相良育弥|茅
JAM電設|電気       
丸益設備|給排水
yantor |布
ふじたともこ|灯
FO A S|塗装

大橋史人|設計監理
光田揚子|写真

掲載誌|商店建築2025 7月号
    Commercial Space Lighting vol.10